シリーズ「買われた記事」その2~「国の看板」でビジネス①電通グループと共同通信グループ

ワセダクロニクルは、早稲田大学ジャーナリズム研究所(所長:花田達朗)のもとに作られた非営利の調査報道メディア。
その次の記事を以下紹介します。
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人の命にかかわる薬を扱った記事でカネが動いていた[注1]。

掲載されたのは脳梗塞(のうこうそく)を予防する「抗凝固薬(こう・ぎょうこやく)」に関する記事だ。効き目が強すぎると脳内で出血し、死に至ることもある難しい薬だ。因果関係は不明なものの数百件の死亡事例が公的機関に報告されている。

関与していたのは、電通グループと共同通信グループだ[注2]。

記事を書いた一般社団法人共同通信社(共同通信)の編集委員(65)は、私たちの取材に対し営業案件だったとの認識を「持っていたといわざるを得ない」と答えた[注3]。「営業案件」とは、金銭が絡むビジネス案件という意味だ[注4]。記事は、「PR」や「広告」といった表記が一切ないまま配信され、地方紙8紙に掲載された[注5]。

この編集委員が記事の下敷きにしたのは、「健康日本21推進フォーラム」という団体が作成した報道用資料[注6]だった。共同通信の100%子会社、株式会社共同通信社(KK共同)の医療情報センター長が電通側から売り込まれたものだ。センター長がそう証言する。

この「健康日本21推進フォーラム」という団体は、電通の100%子会社である電通パブリックリレーションズ(電通PR)が事務局を務めている。
団体名にある「健康日本21」[注7]は厚生労働省が主導する国民運動だ。電通PRは「国の看板」をビジネスに使っていたことになる[注8]。
私たちは、2017年 2月1日に以下のような問いを投げかけて、特集をスタートした。
再度これを掲げ、この回では「健康日本21推進フォーラム」の実態に迫っていく。
命にかかわる薬の記事をめぐってカネが動いていた。
記事がカネで買われていたことにならないのだろうか。

人の命をどう考えるのか――。広告とは、PRの仕事とは何か。そして、ジャーナリズムとは。
このシリーズを通じ、患者やその家族の皆さんと一緒にこの問いを考えていきたい。
【動画】特集・調査報道ジャーナリズム 「買われた記事」
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顧客企業の「メリット重要」
私たちの手元に、電通PRの社内リポート合併号(2017年1月、2016年12月) がある。

A4判で計7ページ(表紙を含む)。「健康関連調査に、ひと工夫を 国民健康運動『健康日本21』の活用を」と題され、「健康日本21推進フォーラム」が実施する調査の概要や目的、そしてその活用法を社員向けに紹介している。リポートの冒頭には「『健康』は不変の強力コンテンツ」のタイトルが掲げられている。
以下、社内リポートから抜粋する。太字とカッコ内はワセダクロニクル。
――健康に対する関心は衰えることなく、毎日、メディアを通じてさまざまな健康関連情報が発信されています。なかでも健康に関する調査は、1年間に約1000件以上も実施され、報道されています。健康関連の調査結果は、昔から変わらない不変のPRコンテンツなのです。

――調査結果をもとに発信するコンテンツは、国が推進している健康支援のメッセージに合わせることで、調査結果に新たな価値が生まれます。一企業の取り組みが、国が推進する健康運動を支援・準拠した、より意識の高い取り組みとしてアピールすることができるのです。

――どのような場面でも調査主体である自社(電通グループの顧客企業)にメリットが生じることが重要です。調査の中で製品を紹介することはできませんが、調査結果を見て、自社製品が活用されるようになることを狙います。

――調査結果を発信する際に、有識者のコメントがあると、報道されやすくなります。メディアにとって有識者のコメントはそのまま採用しやすいからです。

要するに電通PRは社員に対し、国の施策と有識者の権威を使って、顧客企業の製品を宣伝する「コツ」を伝えているのだ。

さらに社内リポートは、共同通信の編集委員が記事作成の下敷きにした報道用資料を、「うまく使っている」[注9]例として、挙げている。

シリーズの1回目でも触れたが、抗凝固薬は扱いが難しい薬だ。患者によっては、効かないと脳梗塞を起こし、効きすぎると脳内の出血が止まらなくなってしまう。

抗凝固薬をめぐっては、現場の医師らから数百件の死亡事例が、公的機関の医薬品医療機器総合機構(PMDA)[注10]に報告されている。服薬と死亡の因果関係は不明だが、製薬会社自身が「重篤な出血で死亡するおそれがある」と警告を出しているほどだ。

そんな命にかかわる薬の記事でカネが動いていたのである。このことを、当事者の患者やその家族はどう考えるだろうか。

記事は2013年に地方紙8紙に載った。8紙(朝刊)の発行部数の合計は180万部以上[注11]だ。

ここで、問題の記事が読者の目に触れるまでの流れを整理しておく。
(1)電通PRは、バイエル薬品の抗凝固薬の広報支援を目的に親会社の電通から仕事を請け負った[注12]。
(2)電通PRが事務局を務める「健康日本21推進フォーラム」が抗凝固薬に関する調査を実施し、電通PRが調査結果の報道用資料をつくった。
(3)電通PRは、共同通信の100%子会社であるKK共同に報道用資料を使って記事の配信について相談し、KK共同の担当者は共同通信の編集委員に提案した[注13]。
(4)編集委員は医師に取材することなく、報道用資料を下敷きにして記事を書いた。
(5)記事は地方紙に配信された。配信後、電通PRはKK共同に「媒体費」の名目[注14]で55万円を支払った。

電通関係者によると、「媒体費」とは新聞や雑誌、テレビなどの媒体で広告を掲載した場合に対価として支払う費用のことだ[注15]。掲載された地方紙の数にかかわらず、共同通信が配信したら支払われるという[注16]。

カネは記事が配信されると支払われるが、配信されなければ支払われない。そのため関係者は私たちの取材に「成功報酬だった」と語った。
=つづく




志水満
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