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追い込まれたメディアの変化

今回の参議院選挙は6月22日の公示日から今日までの18日間が選挙期間だ。法律上は17日以上と定められ、通例は最短期間とされてきたが、今回は23日が「慰霊の日」と重なるため、1日前倒しにした経緯がある(一方で、「18歳選挙権」を定めた改正公職選挙法の施行が19日であったため、公示日はその翌日以降にする都合もあった)。ただし、異例なのは期間だけではない。
過去モデル崩壊か

 これまで、立候補者の「選挙運動」と政党の「政治活動」が、いわゆる日本の選挙期間中の代表的な表現行為であったといえよう。とりわけ選挙期間中の政党の表現活動枠が拡大して以降、ポスターに加えテレビCMに代表される党首の訴えが、最もわかりやすい選挙公約を知る手段であった。しかし今回は、政党CMを見る機会がほとんどないことに気付く。主要政党の中には、全国向けのCMを一切流していない党も存在する。むしろ、党からのメッセージ伝達の主要な手段は、インターネットに移ったと言ってもよい状況だ。
 およそ各党ともに、日常的にもユーチューブ、ニコニコ動画を積極的に活用してきているが、公式サイト上に選挙向けの動画コーナーを設定するのが一般的だ。同時に、フェイスブック、ツイッターなどのSNS発信にも熱心で、当たり前ではあるが大政党ほど見せる工夫も発信量も多く、選挙資金の多寡が如実に情報の質量に比例している。ユーザーがアクセスしている選挙区の候補者を、自動的にポップアップさせるなど技術的な仕掛けを行っている政党もある。
 こうしたネット上の選挙戦の状況は、選挙の形態が候補者選挙というよりも政党選挙に移行する中で、立候補者の選挙活動に関し、資金力で優劣がつかないようにと定められた、現行の仕組み自体が破綻しかかっている一面を現している。すなわち現行では、候補者の選挙活動は原則禁止し、どの候補者でも行える範囲で必要最小限の表現活動を認めるという方式を採用し、その不足分は「公設」の選挙公報である政見放送や選挙広告によって補うという制度になっているからだ。しかし、見た目お金がかからないから平等性が担保されるとして13年に解禁されたインターネットの世界でも、当初から指摘されていたように、やはりカネがものを言う世界だったということになる(選挙報道の仕組みについては本欄13年3月参照)。
 ただしこうしたネット発信は危うさを包含する。ネットの自由度の高さ、チェックなしに情報が拡散される特性が、問題を引き起こしかねないからだ。その典型が自民党の2枚の写真といえるだろう。自民党総裁が、広島原爆慰霊碑の前でオバマ米国大統領と握手するシーンと、伊勢志摩サミットの各国首脳と伊勢神宮を歩く姿だ。いずれも指導力をアピールするに絶好のショットといえるだろう。そしてこれらの写真は、テレビCMでも使用が予定されていたが、各局の事前審査が通らず差し替えられたと言われている。すなわち、マスメディアの自主規制によって流れないものが、インターネットでは自由に発信することが可能であるということだ。

■政党の扱いに差

 選挙期間中の放送も、通常と同じく原則自由であることは言うまでもない。ただし一般基準として、放送法によって「政治的公平」を守ることを、番組編集における自主自律のルールとして有している。さらに選挙期間中については、公職選挙法によって「選挙の公正」を守ることが定められている【メモ参照】。
 こうした2つの「縛り」の中で、放送局は2つの基本的な考え方に沿って選挙期間中の選挙に関する報道を行っていると考えられる。1つは、選挙の争点や各党の訴えの分析・批判、さらには獲得議席数の予想を含む政局を占うような「選挙情勢に関する報道」は、原則自由であって、少なくとも量的平等性には縛られないということだ。しかし一方で、個別の立候補者や政党を紹介するような「選挙運動を紹介する報道」は、公選法を念頭に置いて、限りなく量的平等性を担保するなどの配慮を重ねた番組作りを行ってきている。
 従ってCMで言えば、政党が自由に行うことが許されている「政治活動」と、厳しい制約が課されている立候補者の「選挙運動」を峻別(しゅんべつ)するために、CMには党首および党首に準ずる人以外は登場させないという厳格ルールを適用してきた。また、首相と党首の立場の違いを見極め、「政党」の主張に限定することを求めてきた。これらの慣例は、選挙の公正さを保つためには有効な規制であると考えられるし、その妥当性からすると先の自民党CMを通さなかったのも正当な判断であったと思われる。しかし一方で、インターネットでそれらがなし崩し的に無視される状況があるとすれば、これまでメディアが形成してきた社会的「歯止め」は意味がないものになってしまう。
 同様に、もう一つの今回の選挙の特徴が、放送局によって政党の扱いに差があることだ。たとえば公示日におけるNHKの各党首の声の紹介において、自民22分、民進12分、社民4分など、現行の議席数に比例したかのような、露出時間に差があった。いわば自民党に手厚い報道であったということだ。先の自主ルールに即して言えば、典型的な選挙運動の紹介報道であって、厳格な「イコールタイム原則」を適用すべき事例であろう。もちろんこれまでも「泡沫(ほうまつ)候補扱いの特例」と呼ばれる、合理的な判断によって主要候補者のみを取り上げることの自主的な判断は、裁判所によっても認められてきたところである。しかしその場合も、取り上げる候補者・政党に関しては一定の平等性を担保してきた経緯がある。
 7月7日、NHK会長会見においても、「自主的な編集権で対応しており、新聞でも扱いマチマチ」と回答があったとされる。しかし、新聞でも公正さを意識して、各党・各候補者の紹介には同スペースを与えるのが一般的だ。今回は、それをむしろ「弾力運用」したということであって、これがもし「新しい判断」に基づくとすれば視聴者に対するわかりやすい説明が必要だろう。それなしでは、選挙報道における放送局のポジションが下がっている現状の中で、自ら放送の信頼性を失うことになりかねない行為であって、きわめて残念だ。

リンクより転載





柴田英明 
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